愛読書のジェフリー・アーチャーの作品は、いずれも私を引き付けて一気に読破するのが惜しいくらいの面白さを提供してくれる。今回も次はどうなるかと章を終えるたびに次の章をめくりたくなる。
労働組合の委員長をしていた父親がKGBに殺害され、母親と二人でロシアを脱出した後の運命が、イギリスへ向かった場合の主人公サーシャとアメリカへ向かった場合の主人公アレックスとで異なる人生として描かれ、パラレルに展開していく。
いつもながら波乱万丈のストーリーで、二人の人生がコインの裏表という形で進み、交互に語られて錯綜するので時々混乱しそうだがおもしろい。
イギリスに渡ったサーシャのストーリーでは、妻となったチャーリーがコートールド美術研究所の研究員だという設定になっていて、今年見たばかりの「コートールド展」を連想させて親しみを感じた。
アメリカに渡ったアレックスのストーリーでは、妻となったアンナがニューヨークの画廊に勤めているという設定も、作者の好みのせいだろうか。
アメリカに渡ったアレックスは銀行家となる。一方イギリスに渡ったサーシャは労働党に入党し政治家の道を歩み始める。アーチャーらしく、パラレルに進行して目まぐるしく錯綜するサクセスストーリーは、最後まで飽きさせない大河ドラマとなっている。
ケインとアベルからクリフトン年代記と続く大河小説同様、今回の小説も映画化してほしいものだが、あまりにも複雑で難しそうだ
最期には、サーシャもアレックスも、二人の脱出に手を貸した叔父の葬儀に出るためにロシアへ戻るのだが、途中の飛行機事故によって、結局アレクサンドルと言う名前で一人に収れんされて、プーチンとの対決というところで終わる。あとは現実のロシアの政治を見て、とばかりに含みを残して。
民主主義の力を信じる主人公の、ロシアからの移民でありながら選挙で選ばれた労働党議員サーシャが述べる言葉「すべての議論を是々非々で判断し、論破し、時には潔く負けを認めて聞く耳を持ちたい」を、日本にあてはめて、桜の会で議論もせず、都合の悪い資料はシュレッダーにかけて証拠隠滅をはかり、逃げまくる長期政権の長に読ませ、聞かせたい。
最近の世界の政治の風潮は、トランプを初めとし、ジョンソン、安倍と同じ流れで、民主主義とはかけ離れた、「ミーファースト」や「都合の悪いことは無視」という流れにあるのが不気味だ。
エンタテインメント小説を楽しみながらも気になる一年の終わりを迎える。
(写真は、姉の家の庭で遊ぶリス、散歩中に見つけたカマキリとカメ、鷹かと思うほどのスイス・グランドジョラスのアルペンキバシガラス)