(写真は夏休みの思い出のコスモス、白駒池の森、ひまわり、野草)
本屋大賞ノミネートの長編小説「羊と鋼の森」
宮下奈都の「羊と鋼の森」はブランチブックアワード大賞受賞、2016本屋大賞ノミネート作品で読みごたえがあった。
「羊と鋼の森」とは何を意味しているのか、しばらく読み進まないとわからない。ピアノの調律に魅せられた一人の青年が成長する過程で気づく、ピアノの調律の奥深さとピアノの音の作られ方、ピアニストと調律師の深い絆のような関係、私の知らないことが多い音の世界の物語だった。
49番目のラの音を440ヘルツに合わせ、それを基に音階を組み立てる、のが調律だという。
外村は高校生の時、体育館のピアノの調律にきた板鳥という調律師の調律に惹かれる。そして調律師養成専門学校に入り、板鳥のいる江藤楽器に就職する。それからピアノの調律にまつわる物語が始まる。
外村はピアノに出会って美しい記憶を思い出す。
小鍋で煮出した紅茶にミルクを足すと、大雨の後の濁った川みたいな色になる、カップに注がれて渦を巻く液体に見惚れる。
遅い春の山で裸の木々が芽吹く光景。など私の記憶も思い出させてくれる。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体。少しは甘えているようでありながらきびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」「原民喜」の文体のような音、それが理想の調律師が作り出す音だ。調律師外村はこの夢を追及する。
調律した途端に艶がでる、鮮やかに伸びる、ぽつん、ぽつん、と単発だった音が走ってからまって音色になる。葉っぱから木へ、木から森へ、今にも音色になって音楽になっていく。羊毛からできているハンマー、ハンマーから弦に伝わり、ピアノの音楽になる様を「羊と鋼の森」が形容していることが私にもわかってくる。
鍵盤を指で叩くと連動してハンマーが弦を打つ。ピアニストは鍵盤を鳴らすのではない,弦を鳴らすのだ。自分の指先がハンマーにつながっていて、それが弦を鳴らすのを感じながら弾く。ピアニストにもきいてみたい。
ギリシャ時代の学問は天文学と音楽。星座の数は88、ピアノの鍵盤は88(52と36)
善いという字は羊からきている。美しいという文字も。古代の中国では羊がものごとの基準。神への生贄だった。
たくさんの知らなかった物語を教えてくれた本だ。合唱を趣味としている私にはこんなことも知らないで歌っていたのかと恥ずかしくなるような思いをも感じさせる、すばらしい小説だった。
知識だけではない。こつこつと自分に向いた仕事なり学問なりを努力することが大事だということも、調律師の主人公から学ばせてもらった。
本屋大賞ノミネートの長編小説「羊と鋼の森」
宮下奈都の「羊と鋼の森」はブランチブックアワード大賞受賞、2016本屋大賞ノミネート作品で読みごたえがあった。
「羊と鋼の森」とは何を意味しているのか、しばらく読み進まないとわからない。ピアノの調律に魅せられた一人の青年が成長する過程で気づく、ピアノの調律の奥深さとピアノの音の作られ方、ピアニストと調律師の深い絆のような関係、私の知らないことが多い音の世界の物語だった。
49番目のラの音を440ヘルツに合わせ、それを基に音階を組み立てる、のが調律だという。
外村は高校生の時、体育館のピアノの調律にきた板鳥という調律師の調律に惹かれる。そして調律師養成専門学校に入り、板鳥のいる江藤楽器に就職する。それからピアノの調律にまつわる物語が始まる。
外村はピアノに出会って美しい記憶を思い出す。
小鍋で煮出した紅茶にミルクを足すと、大雨の後の濁った川みたいな色になる、カップに注がれて渦を巻く液体に見惚れる。
遅い春の山で裸の木々が芽吹く光景。など私の記憶も思い出させてくれる。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体。少しは甘えているようでありながらきびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」「原民喜」の文体のような音、それが理想の調律師が作り出す音だ。調律師外村はこの夢を追及する。
調律した途端に艶がでる、鮮やかに伸びる、ぽつん、ぽつん、と単発だった音が走ってからまって音色になる。葉っぱから木へ、木から森へ、今にも音色になって音楽になっていく。羊毛からできているハンマー、ハンマーから弦に伝わり、ピアノの音楽になる様を「羊と鋼の森」が形容していることが私にもわかってくる。
鍵盤を指で叩くと連動してハンマーが弦を打つ。ピアニストは鍵盤を鳴らすのではない,弦を鳴らすのだ。自分の指先がハンマーにつながっていて、それが弦を鳴らすのを感じながら弾く。ピアニストにもきいてみたい。
ギリシャ時代の学問は天文学と音楽。星座の数は88、ピアノの鍵盤は88(52と36)
善いという字は羊からきている。美しいという文字も。古代の中国では羊がものごとの基準。神への生贄だった。
たくさんの知らなかった物語を教えてくれた本だ。合唱を趣味としている私にはこんなことも知らないで歌っていたのかと恥ずかしくなるような思いをも感じさせる、すばらしい小説だった。
知識だけではない。こつこつと自分に向いた仕事なり学問なりを努力することが大事だということも、調律師の主人公から学ばせてもらった。