米原万里の「魔女の1ダース」に思う
ロシア語通訳の経験を生かしたウイットあふれるエッセー集は、読んでなるほどと思わせ、そして気付かせることが多い。
魔女の世界では、1ダースは13本が通り相場、露和辞典に悪魔の1ダースは13(不吉な数)と出ているという。
最後の晩餐の13人目が裏切り者、絞首台の13階段、などはキリスト教文化。
そして12は幸運な数字。イエスキリストの生まれ月は12月、クリスマスイブは24日、その弟子の数も12人、1年は12カ月、1日は12の倍数の24時間、天空は12の星座、など数え上げるときりがない。
通訳仲間には「アルバイトがアルバイトを紹介する法則」があるという。 必ず自分より下手な人を紹介するという。自分を高く売るという意味では、それは当然だが・・・。合コンでは必ずいい女は少し見劣りする女と一緒に来たではないか。
また、「どんないい女も、ダメな男といるとダメになる」(チェーホフ)という。これもそうかもしれないがおもしろい。
サンテミリオンの花とルレ・エ・シャト―の花
毎日朝昼晩と肉食し、狩猟をことのほか好むくせに「鯨を捕るのは可愛そう」とヒステリックに反捕鯨キャンペーンを展開する人々を、自己の経験則絶対化病の人々だとめった切りにしたり、「宗教弾圧」という言葉一つで、オーム真理教の捜査や報道に当初躊躇していたマスコミや警察を弾劾したり、明確な指摘の展開が小気味よい。
ボルドーの公園
「無知ゆえの自信過剰と独りよがり、異なる文化や歴史的背景に対する信じ難いほどの想像力の欠如」、という表現で英語圏の人々を一刀両断にし、英語やフランス語などの「国際語」を母語とする人々が、他言語を話す国々の異なる発想法や常識に対する想像力を貧しくしている、と外語大卒らしく、言語学的に批判していることには共感する。
これこそ今のキリスト教世界とイスラム教世界との戦いを泥沼にしている根本的原因かもしれない。イスラム教世界の文化をキリスト教世界の文化で評価しているのだから。
ロートレック美術館の庭
異文化摩擦はどこまでも深く、通訳業をしながら彼女は多くの体験を積み洞察を深めている。ロシアとの領土返還交渉では、本音はどこにあるのか、4島など返すつもりはないのか、2島なら経済的見返りとともに返してもよいのか、4島とも金で解決できるのか、など落とし所を、政治家でない彼女に聞いてみたくなった。
更に言うと、中国との交渉や韓国との交渉に、彼女のように異文化を真に理解している通訳の逸材はいないものだろうか、と思ったりする。異文化など理解もできないどこかの知事が国のリーダーにでもなったら大変だ。紛争を大きくし戦争の危機にまで発展しかねない。
ポン・ド・ピエール
アルヴィ、大聖堂と橋
*写真はいずれも妻の提供